- TOP
- > COLUMN LIST
- > COLUMN DETAIL
2020.11.17.
Category:
Spirit of Flamme
Spirit of Flamme—飯嶋真美の女性活躍とは【vol.3】バブル崩壊~現代
こんにちは。フラームジャパンです。
先日公開した『Spirit of Flamme—飯嶋真美の女性活躍とは【vol.2】戦中~高度経済成長期』みなさんお読みいただけましたでしょうか?
Spirit of Flamme vol.2 では、高度経済成長期を迎え女性の就業の機会と幅が増した一方、その性的役割がますます明確化してしまった背景についてお話しました。
今回のvol.3では、「国際婦人年」を機に女性の社会的地位がどう変化していったのか?
また、経済の衰退とともに人々の働き方の意識がどう変わってきたのか?
これらの点についてお話させていただきたいと思います。
目次1.国際婦人年と法整備
2.景気の停滞と人々の「はたらく」ことへの意識の移ろい
3.ライフワークと女性活躍
4.女性活躍と国力
5.アベノミクスと女性活躍
6.女性活躍の歴史③バブル崩壊〜現代のまとめ
女性の「はたらく権利」が見直された時代
第一次オイルショックにより日本の景気が低迷していた最中、国連は1975年にメキシコシティで開催された国際婦人年世界会議にて、同年を「国際婦人(女性)年」と定めました。
これにより、日本のみならず世界中で女性の権利と社会的地位の向上の動きが活発にみられるようになります。
その後1976年から1985年まで続いた「国際女性の10年」を迎えるにあたり、日本の女性の労働環境における法整備が進められることになります。
男女雇用機会均等法の成立
1985年に成立した男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律)は、女性の職業選択の幅を大きく広げるきっかけとなりました。
Spirit of Flamme—飯嶋真美の女性活躍とは【vol.2】戦中~高度経済成長期でもあったように、経済成長をきっかけに多くの女性が社会労働に従事するようになりました。
ただ女性がつける職業というと、事務員やサービス業などの技術の修練や勉強があまり必要でないものか、教師や看護婦(当時)などの女性が持つとされる「母性」を適性の根拠とした専門職がほとんどでした。
当時は結婚・出産を経て女性が正社員で働き続けるということは、社会的にもあまり考えられておらず、早い段階で退職する可能性の高い女性が職業を自由に選ぶことはとても難しい時代だったのです。
その状況に対し、男女雇用機会均等法は以下のように定めました。
男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律)(1985年成立)
- 募集・採用、配置・昇進についての均等な取扱い
……事業主の努力義務 - 業務の遂行に必要な基礎的な能力を付与するための一定の教育訓練
……男女間で差別的扱いをすることを禁止 - 住宅資金の貸付その他これに準ずる福利厚生の措置
……男女間で差別的扱いをすることを禁止 - 女性労働者の結婚・妊娠・出産退職制や、女性の結婚、妊娠、出産及び産前産後休業の取得を理由とする解雇
……禁止
またこれらと同時に、労働基準法の一部改正も行われました。
女性保護規定が緩和されたことにより、女性の就業の幅がより広まった一方、産後休業期間の延長等母性保護制度(この場合の「母性」とは、子を産み育てる身体的機能のこと)の拡充も図られました。
(参照:Ⅲ 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月))
改正男女雇用機会均等法
その後男女雇用機会均等法は時代の流れとともに、2016年までに3回改正されます。
特に1997年の第1回改正時には、その正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」と改めました。
この改正では女性の就業における差別的取り扱いを禁止しただけでなく、男女の雇用機会や待遇の均等化を目的とした内容へと変化しました。
この改正男女雇用機会均等法では、1985年成立時から2016年改正時で、以下のように内容が変化しています。
改正男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
- 募集・採用、配置・昇進についての均等な取扱い
……降格、職種の変更、雇用形態の変更、退職勧奨、労働契約の更新を追加し、男女双方に対して性別を理由とする差別的取扱いの禁止 - 業務の遂行に必要な基礎的な能力を付与するための一定の教育訓練
……「一定」と限定せず全面禁止 - 女性のみに対する優遇措置
……「女性に対する差別」であるとして禁止。
※ただし、過去の女性に対する取扱い等が原因で男女労働者間に事実上の格差が生じている状況を改善する目的で行う女性のみを対象にした措置や女性を有利に取り扱う措置については法違反とならない。 - 間接差別(性別以外の事由を要件とするものでも、実質的に性別が理由となる恐れのあるもの)
……厚生労働省令で定める措置に合理的な理由がない場合に禁止 - 母性管理措置
……事業主の義務化 - 妊娠、出産、産前産後休業の取得を理由とする解雇
……産前休業の取得に限らず、母性健康管理措置、産前休業の請求、その他厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇、並びにそれ以外の不利益な取り扱いの禁止。
また妊産婦(妊婦、または産後1年を経過しない女性)に対する解雇の無効(事業者の反証がない限り)。 - 妊娠・出産等に関する上司・同僚による就業環境を害する迷惑行為
……事業者に上記を防止する措置を義務として規定。 - セクシャルハラスメント(セクハラ)
……男女ともに対象であるとし、防止措置義務を規定。
また労働基準法上の女性保護規定も、母性保護に関する内容を除き廃止されました。
(参照:Ⅲ 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月))
こうして、女性たちが男性と同条件で働くことを可能とする法整備がなされたのです。
「はたらく」ことに金銭以上の価値を見出し始めた人々
上記の法整備が進むとともに、人々の「はたらく」ことへの意識が大きく変動したきっかけとなる出来事が起きます。
バブル経済の崩壊です。
高度経済成長期が幕を閉じ、経済が停滞していた最中打たれた政府の金融緩和により、日本の景気は実態以上に膨れ上がる泡沫(=バブル)のような好景気を迎えます。
物は作れば作るほど売れ、人々はどんどん豊かになり、それに伴いサービス業も活性化しました。
すなわち働けば働くほど豊かになり、会社に帰依し忠誠を誓うほどどんどん出世していく時代でした。
これは高度経済成長期下でも顕著にみられた傾向であり、その時代が記憶に新しい人々は過去の栄光の時代を思い出しながら働いたのです。
しかし突けば割れる泡のように、バブル経済は儚く崩壊。どれだけ働いてもどれだけ頑張っても、かつての好景気程は豊かになることのない、「失われた30年」と呼ばれる時代に突入します。
この「失われた」時代は現在も続くという見方が一般的ですが、「ライスワーク」としての仕事のみでは、人々は仕事への意欲を保つことが難しくなってきました。
そこで、次第に人々は働くことに「自己研鑽」や「自己表現」の手段としての価値を持つようになります。
男性も女性も、区別なく輝ける時代を創るために
男女雇用機会均等法は、そんなバブル経済が膨れ上がってきた頃に成立しました。
好景気の中女性の雇用はどんどん拡大し、働く女性たちのために法整備が進められた背景もあります。
一方でバブル崩壊とともに人々の「はたらく」意味が変遷していく中で、「やりたい仕事に就く」「長く働き続ける」「ライフイベントに左右されずに働く」といった、男性にしか今までできなかったことを望む女性も次第に増えていきます。
このように女性の権利と長年の願望を反映する形で、男女雇用機会均等法の改正は重ねられてゆきました。
しかしここでポイントとなるのが、男女区別なく全員が仕事を通じて自己表現できる社会を創るには、女性の現状を変えるだけではまったく足りなかったということです。
そもそも女性の性役割が家事労働に強く限定されるようになったのは、前回お話したように高度経済成長期のこと。意外と最近です。
これは男性の長時間労働により経済成長が支えられていたためであり、常に家庭に誰かがいなくては家事や育児が回らない状況が続いていました。
これがより女性を家庭に縛り付ける結果をもたらし、雇用が増えるはずの高度経済成長下にありながら専業主婦化が進んだと言われています。
そのため、女性が真に働き続ける環境を作るためには、女性に限定した法整備や働き方改革だけでは対応しきれない事実は否めません。
そこで、男性・女性といった性別の区別を持たず、その全員が自らのライフプラン・キャリアブランを実現できる社会の構築と意識改革が大変重要になってきました。
一億総活躍社会の実現に向けて
少し話が変わりますが、女性の権利としての「女性活躍」が叫ばれてきた一方、女性活躍は日本の社会的問題を解決する糸口としての側面も持ち合わせるようになります。
高度経済成長期前後から年々減少傾向にある出生率を起因とする、バブル崩壊後からの急激な労働人口減少問題は、現在の日本の国力に大きな問題をもたらしていると考えられています。
これを解決するために提唱されたのが、アベノミクスの一端でもある「一億総活躍社会」の実現です。
この労働人口減少問題は、ただでさえ生産人口が減少する中で特に女性の生産量が特別に少ないという問題も同時にはらんでいると言われているのです。
先述の通り、日本女性の働き方の特徴として新卒で正社員として雇用され、結婚(出産)を機に退職、子育てがひと段落したころにパートタイマーとして働き始めるという傾向が挙げられます。
この傾向を示す資料として、日本人の年齢ごとの労働力率(何らかの形で就業している、または就業を希望しているが失業している人口の比率)をグラフに示した「年齢階級別労働力率」の資料が独立行政法人労働政策研究・研修機構から出されています。
(参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構 年齢階級別労働力率)
ご覧の通り、女性は20代後半~30代にかけての結婚・出産適齢期での労働力率が落ち込み、グラフがM字線を描いていることがわかります。男性の場合の比べるとその差は歴然です。
時代別に見れば、その落ち込み方は徐々に小さくなっていることがわかりますが、それでも結婚・出産を機に多くの女性が労働を希望しなくなることがわかります。
また、子育てがひと段落した女性が復職する場合にも、まだ問題は潜んでいます。
以下は同上より出されている「各年齢階級における正規、非正規の内訳 女性 1988年~2019年」の資料です。
(参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構 各年齢階級における正規、非正規の内訳 女性 1988年~2019年)
少々わかりにくい資料ですが、各年齢階級ごとに色分けがなされており、それぞれの年齢階級ごとにドット模様が非正規雇用者、塗りつぶしが正規雇用者の人数となっています。
このグラフからも、女性の雇用者数は年々増加していることがわかります。
しかしその一方で、主に増加しているのは45歳~65歳以上の非正規雇用者であることもわかります。
対照となる同様の資料で、男性についてまとめたものでは以下のようになります。
(参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構 各年齢階級における正規、非正規の内訳 男性 1988年~2019年)
ご覧の通り男性に限定すれば、45歳以上の労働人口における非正規雇用者の割合は、女性に比べ著しく低いと言えます。
55歳以上の層からやや非正規雇用者の割合が増加傾向にありますが、これは定年後の雇用によるものと推察されます。
これらの資料からも、女性は結婚・出産を機に退職し、その後パートタイマーとして復職するという推察が得られます。
そしてこの問題の解決は、すなわち日本の国力低下問題の解決につながるというのが現政府の考え方になるのです。
「働く女性」が日本を救う?
日本の労働力低下がもたらす大きな問題は、税収入の低下です。
働く人が減ればその分所得税は下がり、政府が得られる税収は減ります。
また働けるはずの年齢の人々が働かない、働きたいと思えないことは経済活動にとってもダメージであると言えるでしょう。
この労働力低下は、少子高齢化による絶対的な労働人口の減少が原因であることは言うまでもありませんが、潜在的な労働力である女性が存分に働けていないことにも原因があると政府は分析しています。
そこで経済政策のひとつとして内閣により打ち出されたのが「女性活躍推進」です。
つまり、日本政府の言う「女性活躍推進」というのは、働き方改革やワークライフバランスについてではなく、日本の国力増加について言及するものなのです。
もちろん、女性が今後より活躍するためには、女性のみならず男性も含め社会全体の働き方改革が必須になることは先述の通りです。
しかし本来の目的が日本の国力増加にあるということを念頭に置かなくては、日本の女性活躍は誤った方向ばかりに進んでしまいます。
例えば「働き方改革」の代表格ともいえる時短勤務。これは子育てをされている女性にとっては良い制度と言えるかもしれませんが、フルタイム正社員と同程度の待遇で時短勤務をすることは難しいことも多く、非正規雇用になったり給与減となったりするケースが大半です。
これでは結局女性の雇用の不安定化や給与減につながり、ひいては日本の国力増加という本来の目的を達成することはできません。
目先のわかりやすい成果を求めるのではなく、「本質的な女性活躍とは何か?」について考え、行動していくことが重要となります。
女性活躍の意味が大きく変わった時代
いかがでしたでしょうか?今回はバブル崩壊から現代にいたるまでの女性活躍の在り方についてまとめていきました。
こうして見ていく、現代における女性活躍は過去のそれと似ているようで、実は違った意味も持っているのだということをお分かりいただけるかと思います。
イギリス産業革命以降の近代では、女性とは家庭にいることが幸せであり、彼女たちが働くのは経済的に困窮している場合か戦争で労働力が足りていない場合が大半でした。
戦後の復興期は女性の労働力を必要とした時代であった一方、高度経済成長期ではその成長を支える男性たちの長時間労働の立役者として、女性は家事労働に従事するのが主であるという性役割がより確固なものとなりました。
ただ、この時期の技術革新により女性の家事労働負担が激減し、子育てが落ち着いた女性たちがパートタイマーとして社会復帰することを可能にしたことは特筆すべき点でしょう。
バブル経済とその崩壊を経験した私たちの労働観は大きく変わり、「はたらく」権利とお金を手に入れること以上の喜びを労働に見出すことになります。
国際情勢に押された形でありながら、これらの価値観を体現するものとして男女雇用機会均等法は成立し、その後何度も改正されました。
そして現代。
私たちにとっての「女性活躍」とは、今までの歴史で勝ち取ってきた「はたらく」ことの喜びの象徴であると同時に、この日本を成長させるためのいわば「課題」とも言えるようになっているのです。
では今後私たちは「女性活躍」とどのように向き合っていけばよいのでしょうか?
次回はまさしく「現代」における女性活躍の在り様と人々の労働観の変化、そしてその課題を探ることで、この先我々はどうしてゆくべきか?という考察につなげていこうと思います。
次回もお楽しみに!