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2025.10.23.
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初の女性総理誕生 — ガラスの天井は割れたのか?

こんにちは。フラームジャパン代表の飯嶋真美です。
日本初の女性総理誕生という歴史的な瞬間をみることができました。その時、シンプルにとても嬉しかったです。そして総裁選においても、熱のこもったスピーチに感動しました。高市総理は、「女性初だから」意図的に女性に総理の役職を与えられたのではなく、「なるべくしてなった」と感じることができた瞬間でした。
政治は変化している。でも、社会の前提はまだ変わっていない。
この数年、女性リーダーの登場や多様性の議論が進みました。
しかし、社会の空気の奥底には、いまだに「性別役割」の前提が根強く残っていることを私は出産・育児を通じて痛感しました。
産後すぐの時、体は思うように動かず、切開、出血のあとの回復期。
それでも病院でも役所でも、「赤ちゃんを連れてお母さんが来てください」と言われ、お父さんが行ってもだめな場面が何度もありました。私はよれよれの体で、自分だけでも大変なのに、3㎏の赤ちゃんを抱っこしていかなければならず、「なんでお母さんしかダメなのですか?」と聞いたのですが、「体調大変ですよね、貧血の薬だしますねー」とかみあわないことを言われて、相手にしてもらえませんでした。おそらく、看護師さんや役所の方も、なんでお母さんじゃないとだめなのか、わからないんだろうな、その理由なんて考えたこともないのかもしれない、と思いました。
そして産後の病室では、父親が看護師さんや助産師さんから育児を学ぼうとしても「お父さんは20時で退室です」と言われました。新生児は夜も3時間おきにミルクを上げないといけないのに、この体で「え、私ほんと無理・・・」と思ったのですが、お母さんの代わりにお父さんがやるのではなく、看護師さんが対応してくれることになりました。看護師さんや事務の方たちから「お父さんはお仕事も忙しいから」と言われ、夫は帰ることに。
——この“男女の役割構造の始まり”は、ここにあるのだと。このとき強烈に気づきました。貧血のぼーっとする頭で感動したのを覚えています。
自分の子供が誕生したこのわずかな時間で、母親は育児、父親は仕事という分担が無言のうちに固定されていって、社会全体が、それを「自然なこと」として学習していくのです。
父親が子育てをすれば「手伝ってえらいね」、
母親が働けば「子どもがいるのに大変ね」。
そしていつの間にか、
お母さんの仕事は「育児があるのに大変なもの」——つまり、育児が本業で、仕事は“副業”、いや、副業ならまだしも社会の風潮の中では好きでやっている“習い事感覚”とでもいうのでしょうか。
病院、区役所、町内会など、生きている社会生活の中では、女性が働くのはまだ異物で、職場だと「女性を管理職に!」という動向の中で、働く女性たちが違和感を覚えるのは当然じゃないか、ということを身をもって実感したのです。
社会の前提が変わらないまま、「活躍しなさい」と言われるのだから。
女性が“男社会”で勝つことがゴールではない
だからこそ、今回の女性総理誕生を「ゴール」ではなく、「スタート」として見たいのです。
女性が男性社会のルールの中で勝つことが「活躍」なのではなく、これまで育児・家事担当だった女性が自分らしい価値観や働き方を持ち込み、社会の“性別役割の前提”そのものを再設計していくことこそが、本当の社会構造の変化だと思います。
高市総理は長い間、男性的な政治の世界を生き抜いてこられた方です。
だからこそ、私はこれまでにない期待感を持っています。
女性が「男性のように頑張る」ことで評価されるのではなく、仕事担当だった男性一択の集団が決めてきた枠組みのなかでは到達できなかったアイデアや、組織運営、人とのつながりの構築の仕方など前提を見直すリーダーシップを見たい!!と思っています。
「女性活躍」の言葉の違和感、その本当の意味は
これまでの日本は、「女性を活躍させる」「女性を管理職に」といった「構造を変える」ではなく「既存の男性中心構造に女性を足して調整する」という“補正的な言葉”で「女性活躍」という言葉を多用してきたように思います。
そして、フラームジャパンも女性活躍推進コンサルティング企業として創業しました。けれど、突き詰めれば突き詰めるほど、見えてきたのは「女性活躍」という言葉の意味のズレ、方向性のズレでした。
多くの人がそれを、“女性がもっと頑張ること”や“女性をもっと登用すること”として受け止めてきた。社会構造を変化させましょうということが、まぎらわしい言葉によって、努力論に意味が変わってきてしまったのですね。
本来必要だったのは、女性が活躍することではなくて、全員が活躍するために、性差の役割分担を変更しましょう、という社会の前提、つまり“普通”を問い直すことだったのではないでしょうか。
そして、その“普通”を見直す契機が、今まさに訪れています。
日本で初めて女性が総理となったという事実。
それは、単に女性がトップに立ったという象徴ではなく、「普通」とされてきた前提を問い直すきっかけとして、私たち一人ひとりがどう受け止めるかを問われているのだと思います。
女性が男性社会の中で頑張る時代から、誰もが自分らしく貢献できる社会へ。
政治も企業も、そして私たち個人も、“普通”を更新することから、次の時代を始めていく必要がある。
今回の女性総理誕生は、その一歩を日本全体が踏み出すための、小さくて大きな転換点になることを願っています。
フラームジャパン株式会社
代表取締役 飯嶋真美