女性MRコンサルのフラームジャパンのインタビューページ

INTERVIEW

インタビュー

製薬業界を牽引するエグゼクティブの方々。
これまでの貴重なキャリアヒストリーや、ダイバーシティ推進が描く未来について、
インタビュー形式でお話を伺いました。

ダイバーシティから
ビロンギングの実現へ
鋭敏な感性とオープンマインドで
組織を導く革新的リーダー

executive interview

アムジェン株式会社
執行役員 スペシャリティケア事業本部長

馬場 継

Kei Banba

※撮影当時:2022年2月

インタビュイー人物画像
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PROFILE


 

アムジェン株式会社執行役員 スぺシャリティケア事業本部長として、循環器・代謝領域、骨領域、中枢神経領域の事業戦略の策定と実行を統括。また、自身の担当事業の枠にとどまらず、アムジェン内のグローバルマーケティングエクセレンスコミッティーのメンバーとして全世界のマーケティング部門に対する活動に加え、Diversity, Inclusion and Belonging (DI&B)のような人・組織文化的課題に関するイニシアティブをリードするなど幅広く活動している。


 

【経歴】


・ファイザー株式会社 https://www.pfizer.co.jp/ 営業(MR)、メディカル、マーケティング、経営戦略、新規事業
・日本イーライリリー株式会社 https://www.lilly.co.jp/ グローバルマーケティング(米国)、新規事業
・ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 https://www.bms.com/jp 営業部長
・グラクソ・スミスクライン株式会社 https://jp.gsk.com/ja-jp/home/ スペシャリティケア事業本部長 執行役員
・アムジェン株式会社 https://www.amgen.co.jp/ 執行役員 スペシャリティケア事業本部長


※撮影当時:2022年2月

INTERVIEW

インタビュー

製薬業界で女性活躍(女性の管理職登用や、女性MRの 採用の活発化)が進む中で、実体験で感じたこと。

 

これまでの22年間のキャリアは、 日本社会での女性活躍拡大の変化とともにある。

 

飯嶋:人材戦略の変遷期を迎える製薬業界。 その中でもアムジェンの新しい組織風土を強固にするため、強いリーダーシップでチームを率いている馬場さんのダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に対する考え方をお伺いしたいと思います。

 

飯嶋:馬場さんがこれまで製薬業界に在籍されている期間に、業界の中でも様々な動きがあったと思います。例えば、女性MRは増えましたよね。MRの女性比率は約20年前には5%ほどでしたが、2018年のデータで約14%になっています。この動きの中に実際にいらっしゃった中で、どのように感じられましたでしょうか。

 

馬場:今、私の製薬企業でのキャリアは22年目で、女性MR比率が5%の時代からキャリアスタートしましたが、自分のキャリアが、日本社会での女性活躍拡大の変化とともにあるということは、実感としてあります。 例えば、私の最初のキャリアであるMR時代、当初は、配属された営業所に女性MRは0人でした。それが1、2年もしない内に、3人、5人とどんどん女性MRが増えていきました。当時、同期入社の社員は約100人いたのですが、その時からすでに3分の1くらいは女性になっており、3年もしないうちに新卒での女性比率は50%を超え始めました。そういう状況の中で、どんどん女性が職場に増えていく感覚はありました。

アムジェン 馬場継

今の自分のベースには女性上司と働いた成功体験がある。

 

馬場:その後本社に異動すると、女性比率は営業現場よりさらに高かったですね。これまでに2回ほど、女性が直属上司であったことがありましたが、振り返ってみると女性上司の方がどちらかというとうまくいったような感覚があります。誤解をさけるために、念のために強調して付け加えますが、ここで私が伝えたいことは、女性上司だからいいということではなく、性別で働きやすい上司が決まるわけではないということです。

 

飯嶋:馬場さん世代の男性では結構珍しいのではないでしょうか?

 

馬場:どうなんでしょう。先日、その女性上司と働いていた時の元同僚(男性)にたまたま会ったのですが、今も別の女性上司と働いているらしく、彼に働き心地を聞いたら、彼も女性上司の方がやりやすいと言ってました。 やはり、みんな体験していないからよくわからない。けれども、多くの男性社員にとって女性の上司と働いてみたら、当たり前のことですが、性別で良い上司、悪い上司が決まるわけではないということに、表面的ではなく、心から同意できるのではないかということです。 ただ、現実問題として、日本社会においては、まだそのことに気づくきっかけがない人が多いのが現状ではないでしょうか。 例えば、少なくとも20年前には女性MR比率が5%程度の時代があり、その前の時代からキャリアの半分以上を経験してきた年齢層の方からしたら、女性上司の持つ良さを実体験として感じる機会は極めて少なかったと思います。 女性比率が業界として増える中、私は、自分自身の体験として、男女関係なく優秀なリーダー、多様なメンバーと一緒に仕事し、ともに成長し、成功もできた。これが私の20数年のキャリアの中で、ジェンダーダイバーシティや多様性のもたらすベネフィットに対する価値観を作った実体験だと思います。自身の実体験がない中で、ジェンダー平等の価値観を持つのは実はなかなか難しいのかもしれません。

 

 

グローバルチームで働くと女性比率が非常に高い。

 

馬場:自分自身の米国赴任時も含め、今現在も、グローバルのチームと一緒に仕事していますが、ざっくりいうと半数以上は女性という印象です。ここ5年くらいは本当にそうです。アムジェンのグロ—バルチームは女性が非常に多いし、正直、男性の方がマイノリティだと思うことも。実際に、私を含めて男女比が1:9くらいになる定期ミーティングもあります。それが日本だと、男女比が9:1になるんですね。そういった事実をもって日本の現状をみると「何か漠然とした不平等、ハードルがこの国にはあるのではないか」と考えるきっかけになります。

 

 

 アンコンシャスバイアス 

従来の「女性は結婚で仕事を辞めて、子供を産んで、家を守り、男性は外で働く」という 男女の役割に関する固定観念に対して変革の取り組みをしなかった結果が今現れている。

 

飯嶋:私は10年以上前から、女性MRの採用に携わっていますが、その時と現状の考え方とは大きく違います。 企業側にも、女性は子供を産んだら育児を優先して仕事は二の次でいいよ、というような考え方に基づいて異動や復職後の働き方がなされていた気がします。馬場さんが入社された頃はどうでしたか?

 

馬場:20年前くらいだと、多くの女性MRは就職して3~5年で結婚して辞めていくから、また新しい人を採用して交代しながら循環していく。男性MRはそのまま残り、基本的に終身雇用を念頭に仕事をしていくといった、男女の役割に対する固定的な社会的通念に基づく社会構造がまだありました。いや、今も根強く日本社会の根底には残っているのではないかと思います。 そういう固定的な観念があった中で、日本社会全体では、2003年に初めて「2020年までに社会のあらゆる分野において指導的地位に女性が占める割合を30%に」、という目標を当時の安倍政権が掲げましたが、結果として約15%と未達。それを受けて、2020年に閣議決定された第五次男女共同参画基本計画では、2020〜30年の早い段階までにその目標を達成するとし、企業においては、女性比率を係長以上では30%と目標を打ち出していますが、現状は19%です。女性の課長級で18%、部長級職も2025年までに12%をターゲットにしていますが、現状は課長級で11%、部長級で7%です。 このような統計および政策の進捗の遅さを見ると、日本社会には根本的に女性活躍を妨げるアンコンシャルバイアスがあるといえ、それを意識し対応することが日本社会におけるジェンダーバランス改善には重要だと考えています。

 

飯嶋:フラームジャパンでも、女性MRを採用した次には、女性管理職が欲しいという声が多く、それに対して、女性管理職研修を行っていますが、本人たちからの話を聞くと数字以上に重たい課題があるな、というのを実感します。一人が変わっても、一つの会社が変わっても、すぐに社会通念を変えることは難しいことですから、多くの人がそれに気づくということが大切ですね。

 

 

女性はキャリアを犠牲にして家事をし、子供を育てないといけないのか? 男性と女性の家事・子育て分担に違和感

 

飯嶋:日本では少子化が問題となっていますが、実は少子化というより少母化が問題である、と私は思っています。お子さんを出産する女性は2人産むことが多いですが、そもそも女性が子供を持たないという決断をすることが多いのが現状です。やはり、キャリアとの相関性はあるものと思いますが、馬場さんはどう思いますか?

 

馬場:大前提として、結婚する/しない、子供を産む/産まないの個人の決断は尊重されるべきです。その上で、小母化、つまり子供を産まない決断をする背景には子どもを持つことによって何かを犠牲にしなければならないと思っていることもあるのではないでしょうか。その犠牲になると考えられているもののひとつがキャリアだと思っています。 家事や子育てのために本当に何かを犠牲にしなければならない社会だとしたら、それは変えなければならない。政策的な支援、企業側の支援は必ず必要だと思いますね。ただ、それと同時に、夫婦間における対話、特に、家事、子育ての分担に関する対話の重要性も指摘しておきたいです。 女性ばかりに家事、子育て等の負担が大きくかかりすぎて、女性活躍を不本意にも妨げてしまっているのではないかという問題意識を持っています。 一つの実例として、私が営業部長時代の話があります。 私の部下の女性MRが出産しました。産休後1年くらいで戻る予定で、復帰後もこれまでどおりにフルタイムで働くと私は思っていました。しかし、彼女から復帰にあたって、時短勤務を希望すると申し出があったんです。理由を聞いたら「子育てがあるので」とのこと。実はご主人も別の製薬企業のMRで、ご主人は今後もフルタイムで働くのだとのこと。 なぜ男性はフルタイムで働き、女性は子育てや家事のために時短にしなければならないのか。私としてはそこに疑問を感じました。決して時短勤務を活用すべきではないとか、時短勤務すればキャリア形成は難しいとか、そういうことを言っているのではありません。夫婦間で十分な議論なく、ある意味自然な流れ”的に、女性はメインで家事・子育てするから時短となってしまったことに違和感を感じたということです。 家事・子育て分担のスタートは50:50で、本来そこからの話し合いで比率が変わるはず、夫婦で話し合ってほしいと伝えましたが、最終的には彼女は時短、ご主人はフルタイムに落ち着きました。 この話は、組織のリーダーとしてジェンダーバランスを考えるときの原体験の一部なのです。この件以降、ジェンダー間の不平等感に対してより考えるようになりましたね。 日本社会には男女の役割に関する固定的な社会的通念、考え方があり、これによって、男女ともに不本意に人生やキャリアの選択をしている結果、今のような、ジェンダー後進国となる現状があると考えています。

フラームジャパン 飯嶋真美

多様性のあるチームでの成功が ダイバーシティの重要性に対する確信に。 男女の役割に対するアンコンシャスバイアスが ジェンダー平等に強い影響を。

 

初めてマネジメントしたチームは 極めて高い多様性を持っていた。

 

飯嶋:フラームジャパンでは、これまでも多くの女性MR、女性管理職を輩出してきましたが、その中でも馬場さんのD&Iへの考え方を先進的で本質的であると思っています。そのようなお考えを持つようになったきっかけや、そのようなお考えを持ったことで実際に変化した行動などはありますか?

 

馬場:ジェンダーを超えたダイバーシティの重要性を意識するようになったきっかけは、初めてラインマネージャーになった時の経験ですね。 そのチームは、私自身がゼロベースで設計、採用し、立ち上げた7名のマーケティングのチームなのですが、非常に多様性に富んでいました。一人ひとりの強みがまったく違うんです。ジェンダーも違うし、そもそもバックグラウンドからして全く異なるメンバーでしたね。 本当に強みが異なるメンバーが集まるとどうなるか。それは、各メンバーが互いにリスペクトしあうチームになるんです。なぜなら、一人ひとりの持つ異なる強みがチームの成功に必要で、チームメンバーの強みが何一つ欠けてもうまくいかないとみんなが信じられるからです。結果としてチームは成功しました。 最初にこのような成功体験をしているのもあり、多様性というものはビジネスの成功のためにも無くてはならないものという認識をしています。

不平等の上に成り立つ成功は恥ずかしいこと。 男女の役割に対するアンコンシャスバイアスがジェンダー平等を妨げている。

 

飯嶋:馬場さんのD&Iに対する考え方は、MRからスタートしたキャリアの中で、ご自身が組織のトップに立たれたことで変化はありましたでしょうか。

 

馬場:改めてジェンダーバランスの観点からD&Iを考えるときに大事なのは、先ほどからお話ししているとおり、日本社会全体に蔓延する固定的なジェンダー概念に気づくことです。いわゆる男女の役割に対する固定的な社会的通念、アンコンシャスバイアスと言われているものですね。男性はこうあるべきだ、女性はこうあるべきだという固定概念があることが、日本がジェンダー後進国である根本原因の一つであると思います。

 

飯嶋:馬場さんはどうしてステレオタイプの考え方を持たれていないのか不思議でした。 実体験があっても、誰もがそういう風に思うとは限らないですし。

 

馬場:ちょっと変わった個人的な考え方であることをあらかじめお断りした上でになりますが、私の中に理不尽な不平等、アンフェアに対する恥ずかしさがあるのかもしれません。例えば、今、縁あってこのポジションにいるわけですが、自分のこれまでのキャリアが不平等のもとで成し遂げられたと見られるのは恥ずかしいなと思うのです。なので、これからの人たち、自分の子供世代には、より機会平等な社会、職場を残したいと思っています。

 

飯嶋:今このタイミングはまさに、時代の転換点でもあり、これまでの経営指標以外にも企業内部の健全さが求められるようになりました。 社会にとって何が必要なのか見極め、ビジネスの中でダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいたんですね。

 

馬場:企業の社会的責任の一部に男女平等、機会均等といった多様性、つまりダイバーシティがあるのは事実で、アムジェンにおいてもESG(Environment, Social, Governance)の取り組みの一つとして、DI&B(Diversity, Inclusion& Belonging)に取り組んでいます。同時に、ビジネスの観点からしても、多様性はより良い問題解決やイノベーション、革新的なソリューションを見出すことに貢献することがわかっています。 組織内に多様性、およびその多様性を価値創造につなげる仕組みを構築することは、ビジネスの観点からしても重要な経営課題でしょう。

私の考える組織に必要な「DI&B」の定義。DI&Bを通して、多様性による価値創造へ。

 

 飯嶋:アムジェンのD&Iの取り組みでは“Belonging(一体感)”を加えてDI&Bという価値観を掲げられています。 “Belonging”を加えた背景や、込められた想いについてお聞かせください。

 

馬場:ダイバーシティ、つまり多様性の説明はともかく、その多様な人達が摩擦や問題なく安心して仕事に取り組める状態がインクルージョン、さらにその多様性から、より生産的なアウトプットを出し皆でその成果を共有できている状態がビロンギング。同質的な組織の中で事がうまく進むことはあるかもしれないけれども、実際それで失敗した私自身の経験もあります。例えば、自分の弱点は分析が甘かったりすることで、楽観主義的すぎるところがあるんですね。パッと意思決定する人って大胆で強いリーダーシップがあるように聞こえるけど、裏返せば慎重さに欠けるっていう部分もある。そこで、自分のチームには自分と異なる強みを持つ人を置くっていうのが大事なんです。自分とは真逆な人材。慎重で分析的で「本当に大丈夫ですか?」と言ってくれる人。そういう人と互いに認め合い、そして、よりよいアウトカムにつながる事業推進をしていく。そういう意味でも、ダイバーシティの推進は、組織はもちろん、私個人としても絶対必要だと感じています。

 

飯嶋:画一的な組織の判断と、多様性のある組織の判断は大きく異なると思います。 馬場さんは多様性のある組織での考え方をされていて、それがとても馬場さんらしいところだと思います。

 

 

アムジェンでの女性活躍推進の包括的な取り組み。

 

馬場:アムジェンの考え方は、単に女性社員比率を高めることではないです。 採用だけでなく、ネットワーキングや育成、そのためのマネージャーや社員教育、組織風土醸成という包括的な視点でDI&Bのプロジェクトを進めています。最終的に、多様性によって組織やチームの生産性をドライブできる状態にしなければいけません。 採用の段階での平等性というのは、履歴書を集める前から始まります。よくある職務要件書の表現は男性的な表現が多くみられます。例えば「優れたコミュニケーション能力」があります。英語だと、「Excellent communication skill」ですが、何気なく読んでいると何も感じないかもしれませんが、この「優れた」という表現に対する男女のリアクションは異なります。特に女性は「コミュニケーションは不得意ではないけど、『優れた』『Excellent』といわれるとちょっと自信ない・・・」というように考える方が結構いらっしゃるので、表現にも気を付けました。そのようにして改定した職務要件書をベースに集める履歴書も可能な限り男女数が同じになるように集めることが大事ですね。そして、女性だから採用するというようなバイアスなく、公平性をもって審査しています。

 

飯嶋:ダイバーシティ推進の取り組みというと、女性MRの採用にフォーカスする企業が多く、その後その女性MRが管理職へと育成されるというところ まで至らないことが多いです。

 

馬場:アムジェンでは、DI&Bに関心の高い社員が率いる女性活躍に関する従業員グループ WE2(Women Empowered to be Exceptional)というボトムアップのネットワーク形成の活動を行っています。さらに育成には、当然直属上司が関わるので、男女問わずラインマネージャー向けのトレーニングプログラムを導入し、経営チームを皮切りに全ラインマネージャーに展開していきます。加えて、実際にその多様なタレントが育成されたかをタレントマネジメントプロセスでしっかり見ていく、というような包括的なアプローチで取り組んでいます。

 

飯嶋:WE2プロジェクトメンバーの方は社内の問題点をとらえて、解決策に対して突き詰めようとしていると感じます。

 

馬場:WE2プロジェクトメンバーは、男女問わず手挙げで集まってくれた素晴らしい人財だと思っています。先日も、3月8日の世界女性デーに合わせて、日本社会のジェンダーにまつわるアンコンシャスバイアスに関するイベントを行い、約300名の社員が自主的に参加し、意見交換をしたところです。これを機に、アムジェン社内において、ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスを体験した男女が発言をする、対話を通じて、想いを共有し、共感することで、より理解を深めていくことを期待していますし、その継続的な対話のための次のイベントもWE2メンバーが計画しています。

社員一人ひとりの自発的な理解がDI&Bを加速させる

 

今までの体験を活かし、 社会に大きく貢献するためトップとして 目指さなければいけない方向。

 

飯嶋:馬場さんの多様性への感度、原体験を活かして、会社として どういう方向に進んでいきたいですか?

 

馬場:アムジェンジャパンとしては、DI&Bの入り口として、ジェンダーバランスを取り上げています。ただ、言うまでもなく、多様性の概念はジェンダーに限った話ではなく、ジェンダーひとつをとってもLGBTのようなもう一段踏み込んだ性に関するダイバーシティもありますし、もちろんZ世代などジェネレーションダイバーシティの話、そして、考え方の多様性も重要ですね。こうした幅広い多様性に関する対話をする機会を組織内で増やしていくことで、組織内での意識変革が進み、引いては、ラインマネージャーや社員の行動が変わっていくと考えています。まずは気づく、知ることからですね。

アムジェン 馬場継 女性活躍のダイバーシティ対談

アムジェンの社員に求めることは、なぜ多様性が組織に必要なのかを理解し、対話すること。

 

 

飯嶋:馬場さんの目指している組織風土、またその実現のために社員一人一人に期待されていることについてお聞かせください。

 

馬場:私には娘がいるし大切な女性の友人もいます。あなたの女性の友人や娘が、例えば、バイアスに満ちた環境下で、キャリアや人生を不本意にも妥協しなければいけない。そうなった時に、あなたは納得できるのですか?と思います。 一方、例えば男性は家族のために働き、収入を家族にもたらす。それがかっこいいお父さんというステレオタイプ、バイアスに満ちた見方があるとして、実は、そのような固定的男性像に縛られてきた男性もいると思います。実は家事や育児をメインに人生を過ごしたかった。でも固定的な男女に関する社会的通念でそれが許されなかったっていう人もいらっしゃるでしょう。 ジェンダーダイバーシティというと、つい女性性の部分や、そこに起きる不平等ばかりがフォーカスされてしまうことが多くなりますが、男性性を含む多様性の理解が必要です。単純に女性をたくさん登用すれば何とかなるでは済まない、一人ひとりが本質的に理解をして、進めていく必要があると考えています。 そのためには、今の日本の状況には何かしらの固定的な観念があることに気づき、理解することがまずスタートポイントで、そのことについて家族や同僚など周囲と対話することが大切だと思っています。 多様性に関して皆が自由に対話するためには、インクルージョン、つまり心理的安全性が確保されている状態が必要です。その段階を経てはじめて、多様な意見や視点、経験がかけあわさり生産的な状態、つまりビロンギングへの道があると考えています。 正直にいうと、今回のインタビューもそうですが、このような男女の多様性に関する自分の意見を公に話すことについては、私なんかが語るのはおこがましいというか、気が引けるところがないわけではありません。私自身が本質をとらえているかどうかもわからない。しかしながら、今の日本の実情を鑑みると、仮に間違っていたとしても、自分とは違う意見だと思われてもいい、それでもこうしたジェンダーに関する対話が社内外で生まれるきっかけになるのであれば、それが本望であり、大切なことだと思います。 「なぜ多様性が会社組織、日本社会に必要なのか」 そのことを自分の言葉で理解し、自分のこととして捉えてほしいと思っています。 日本社会、アムジェンでの現状をしっかりと理解した上で自分の考えを持って、周囲と対話していくことを、社員一人ひとりに、そしてこのインタビュー記事を読んでくださった方々に期待しています。

編集後記

 

とても盛り上がり、あっという間の2時間ほどでした。常々、馬場さんとは、多様性の組織や、リーダー論などお話しさせていただきますが、「公正」という言葉がぴったりの方だと思ってきました。でも改めて話をしてみて、それよりも「不平等を嫌う」という方が正しかったかもしれません。 常に自分の志向や考えを疑い、本当に自分は思い込みに支配されていないか、そう思いながら日々行動されているのだと思います。 たくさんの方にお会いしますが、これだけストイックな方はめずらしく、馬場さんを見ていると、まさに今は画一的な組織の時代から、多様性組織の時代への変遷期にあるのだな、と感じます。 ダイバーシティのコンサルティングを行っている私としても、彼の今後や築く組織にこれからも目が離せない一人です。 改めまして、馬場さんインタビューを受けていただき、ありがとうございました。アムジェンの皆様のご協力にも感謝いたします。

馬場継 飯嶋真美 女性MR・女性活躍のダイバーシティ対談