女性MRコンサルのフラームジャパンのインタビューページ

INTERVIEW

インタビュー

製薬業界を牽引するエグゼクティブの方々。
これまでの貴重なキャリアヒストリーや、ダイバーシティ推進が描く未来について、
インタビュー形式でお話を伺いました。

熱意・誠意・創意で拓いてきた女性MRの道
真の女性活躍は全員活躍につながる

executive interview

あゆみ製薬株式会社
代表取締役社長

草野弘子

Hiroko Kusano

※取材撮影日:2023年6月

インタビュイー人物画像
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PROFILE



【ファイザー株式会社】https://www.pfizer.co.jp/
当時台糖ファイザーへMRとして入社
マーケティング部中枢神経系疾患チーム、同循環器病グループ
東京支店城南第4営業所長
CV西日本営業部長
IM東北医薬支店長を歴任


【バイタルネット株式会社】https://www.vitalnet.jp/
執行役員営業副本部長兼スペシャリティケア部兼女性活躍推進担当
リードスペシャリティーズ社長(兼任)


【あゆみ製薬株式会社】https://www.ayumi-pharma.com/
代表取締役社長


福岡大学薬学部卒業
慶応義塾大大学院経営管理研究科修士課程(MBA)卒業

INTERVIEW

インタビュー

時代の流れの中で様々な「女性初」を歴任してきたキャリア

 

女性MRの採用すら珍しかった時代、試行錯誤を続けながら活動しMBA取得へ

 

飯嶋:草野さんのこれまで歩まれてきたキャリアのほぼすべてで、「女性初」という立場が多かったかと思います。大学をご卒業されてからの現在に至るまでのキャリアについて教えていただけますか。
 
草野:私が福岡大学薬学部を卒業したのが1983年、男女雇用機会均等法施行の3年前だったのですが、当時女性と男性を平等に採用する会社はほとんどありませんでした。その中で台糖ファイザー、現在のファイザー株式会社では、男女区別なく採用をしていており、特に女性の医薬情報担当を募集しているとのことで大学の方に連絡があり、会社の話を聞きにいったのがきっかけでMRとしてキャリアを始めることになりました。
入社をしてみると、100人ぐらいの大量採用の新卒MRの中で女性MRは2人だけでした。
あゆみ製薬 草野弘子 女性MR
飯嶋:まさに女性MRの第一号世代ですね。実際のお仕事の場面はどのような感じだったのですか?
 
草野:配属になってから数年間は課の中で女性MRは私一人の状態が続いていました。営業で医療機関へ行っても最初はMRと認識されず、「保険の外交さんですか?」と言われることもよくありました。ただ、物珍しさで名前はすぐ覚えていただけましたね。当時の営業活動の中には女性MRがなじまないものもあったので、上司や先輩たちも私が女性MRとして少し違った特色を出しながら成果を出せるようサポートしてくれました。
 
草野:そこから女性の採用も増えていき、社内にも女性MRが増えてきました。10年後くらいには女性MRだけを集めた研修なども始まったのですが、その時には私だけ別のテーブルにされたり、ワークショップに入れてもらえなかったり、他の女性MRとは異なる扱いをされていることを感じました。当時ロールモデルという表現はありませんでしたが、彼女たちにお手本となるような役割を期待されているのだろうなと思います。そう実感したときに、志を持った後輩の女性MRたちにアドバイスできるようなことが自分の中でしっかり確立できていない、ということにも気づいたんです。その会をきっかけに、キャリアに関して何か身につけたいと思い、会社からの派遣でMBAを取得できる制度に手を挙げ、ビジネススクールへ通わせていただけることになりました。
 
飯嶋:ご自身でキャリアを振り返ってギャップに気づき、埋めに行こうという行動力がさすがです。特に当時は女性でそのように手を挙げる方も珍しかったのではないですか?
 
草野:実際のところ、なんで女性を行かせるんだ、という声も当時あったらしいです。もともとは会社で選抜された1名が派遣される形だったのですが、その年は男性と女性1名ずつ受験する形になり、私だけが合格したので、結局私が会社代表として行かせてもらうことになりました。そのときに当時の社長から秘書さんを通して手書きのメモをいただいたのですが、宝物として今でも綺麗にとってあります。
「2年間、ビジネススクールへ行く期間はとにかく楽しんでください」というメッセージが当時の私にはとても心に響いて。このメモは何かあると常に見返していました。今自分が社長になってみても、この体験は大きな意味を持っていると感じています。
 
飯嶋:当時の社長も草野さんに期待をされていたのでしょうね。MBAに通われてみていかがでしたか?
 
草野:1994年はバブル崩壊直後でMBAが脚光を浴びていた時代でした。女性の数は少なかったですが、だからこそみなさん活躍したいと強い意志を持っていた女性たちだったので刺激を受けました。また、違う業界の人たちと触れ合えたことも大きかったです。私は薬学部出身で、製薬業界や医療関係者としかコンタクトがない状況だったので、金融系やIT系など様々な業界の人たちと交流することで本当に視野が広がりました。
MBAを通してビジネスについて一通り勉強したことは、インナーマッスルのような形でその後の自分を支えてくれてきています。MBAの後は希望したマーケティング部に異動となったので、自分でキャリアを作っていった実感もありました。
 

営業として女性初の管理職へ。最大の鍛錬の時期。

 

飯嶋:その後マーケティング部で6年間過ごされた後に、営業に戻られて管理職となられたのですね。
 
草野:当時本社には女性管理職はたくさんいても、営業の女性管理職はいませんでした。営業経験があって、ある程度の年齢で、ということで候補に挙がったと思いますが、当時医薬品のマーケティングの楽しさを実感しており、もっと続けたいというのが正直な気持ちでしたので少し躊躇しました。
そこで色々な方に相談したのですが、私が営業から離れている間に営業の状況も大きく変わってきているので、それを見てみるのもいいんじゃない、といったアドバイスをいただきました。今ほどではないにしろ、情報提供におけるコンプライアンスの意識が非常に高まってきた時代でしたので、もう一度現状の営業を体験することは私としても意義があると思い、営業所長にチャレンジすることにしました。
 
草野:今振り返ると、営業所長の頃が一番つらかったけれど一番成長した鍛錬の時期でした。
というのは、営業所長の先の営業部長や支店長になると、直属部下も所長レベルで皆同じ方向を向いているのでマネジメントもやりやすい部分があります。一方で、営業所長の直属部下であるMRは色んなタイプ、考えの人がいて、向いている方向がバラバラの状態からまとめていくというのが私にとってはかなりハードルが高かったと感じています。自分の中でも葛藤はありながら、一人ひとりとのコミュニケーションの取り方を模索し、向き合うことに全力を注ぎました。
ファイザーとしては女性初の営業所長という肩書がつきまとう中、部下も葛藤したとは思います。得意先からも、女性の管理職をよこしてきたな、といった反応もありましたが、周りからたくさんアドバイスをいただきながら、新製品も多く上市されやりがいもあった期間でした。
 

飯嶋:所長は何年くらい務められたのですか?

 

草野:所長の期間は2年半ぐらいで、その後大きな組織改革があり、循環器領域の営業部長として中四国九州の病院の担当部門に異動しました。その後も社長室や支店長など様々なポジションを経験しながら役職定年までファイザーで勤めました。

 
 
フラームジャパン 飯嶋真美

仕事を楽しみ、人生を楽しむ。マインドセットがキャリア構築の秘訣

 

女性MRだからこそ得られるサポーターも

 

飯嶋:これまでお話いただいた中でも、決して女性MRがキャリアを構築しやすい状況ではなかったにも関わらず、草野さんはしなやかにキャリアを築いてこられたことが印象的です。どのような意識でお仕事に取り組まれてきたのですか?

 
草野:仕事を楽しみたい、という意識は常に持っていたと思います。一日の中で仕事をしている時間が長いのに、そこが楽しくないと人生楽しくないですよね。仕事が嫌いじゃないんでしょうね。
本来病院は女性が多い職場です。薬剤師さんや看護師さん、医局の秘書さんと仲良くなったり、女性の医師も増えてきてはいたので、彼女たちと仕事と関係のない美容系の話をしてみたりするのも楽しんでいました。そうすると、皆さんが助けてくださったり、いろんな情報を下さったり、本業の方もうまく回るようになっていました。
社内では男性が多かったですが、困ったことがあったときには周囲に相談することでモチベーションを上げてきました。私にとっては男女の壁はなく、周囲の方もアドバイスをくれる体制をつくってくれていましたし、私も積極的に人の輪に入り込んでいっていたので孤立することはありませんでした。一緒に仕事をしていた仲間や同期入社メンバーとの交流は、食事会やゴルフ、旅行などのいろんな形で続いています。久しぶりの会話に多くの刺激をもらい、あらためてその有難さを感じています。

飯嶋:周囲をうまく巻き込みながら、何より仕事を楽しもうとする意識こそが草野さんがここまでのキャリアを築いてこられた秘訣なのですね。そんな草野さんから見て、これから女性MRが管理職として活躍していくためには、どのようなことが必要だとお考えですか?

 

草野:少し前だったら、自分のキャリアを早くデザインして、近道をたどる方法を考えたり、意図して違う経験もしたり、必要な知識やスキルを身に付けるといったことを計画的にやりながら自分の進みたい道を歩んでいくのがいいとアドバイスをしていていましたが、この時代ではまた違うなというのも最近感じています。
女性MRには営業での管理職を目指してキャリアアップしてほしい、と願う一方で、女性MRとしてキャリアをスタートした方たちにも選択肢がいっぱいあると思うんです。もちろん管理職としての道もあるし、MSLやアカデミックな方面、本社部門など、いろいろ経験してみてもいいんじゃないかと思います。営業の管理職では、特に人材育成が非常に重要になるので、様々な人と一緒に仕事をする経験は必ずその後のキャリアに活かすことができます。私も営業での管理職であったときに、人材育成には非常にやりがいを感じていました。自分の働きかけによって部下が成長するのを見られるのは、やはり管理職としての醍醐味だと思うのでそういう面も多くの女性MRに早くから伝えてあげたいと思います。
 
 
草野:また、自分の経験からすると、営業所長になる際は本当に突然のことだったので、何をしたらいいのか、という不安がありました。昇進の前に営業所長に対する意識を上げておいてもらえたらもっとスムーズにスタートできたかもしれないと思います。会社としてもっと女性管理職を増やしていきたいという構想があるのであれば、その一歩手前で所長の補佐をするなどの準備期間をとって自身が管理職になった際のイメージを持てるようにし、心理的なハードルを下げることは重要だと思います。
 

飯嶋:最近では製薬業界でも女性社長は何名かいらっしゃいますが、草野さんのように営業のキャリアを長く積まれてきた方は少ないです。そういう意味では草野さんは、今の女性MRから見て、私も頑張ったらこういうふうになれるかもしれないとより共感性の高い存在なのかと思いますし、常に時代からロールモデルとしての役割を求められてきたキャリアだったのかと思いますが、ご自身ではどのように感じてこられましたか?

 

 

草野:ロールモデルとはよく言われてきましたが、自分の中ではそういう感覚はあんまりなかったように思います。ただ時代の流れの中で、ちょうど就職したのも男女雇用機会均等法が起こった頃であったし、女性を登用しようとなった時にちょうどはまったんだなというのは自分で感じているところもありました。そういう機会を与えてもらったんだから、それに対して応えないといけない、裏切ってはいけない、という意識はありました。

私は、パッションという言葉が大好きで、自分のこともパッションリーダーって呼んでいるんです。そう口に出すことで自分を鼓舞しながら情熱を持って、楽しく前向きに建設的に行動したいという気持ちはずっと持っています。

 
 

トップとして取り組むダイバーシティ推進、女性活躍推進への想い

 

プロジェクトを通して感じたトップの熱意、マインドセットの大切さ

 

飯嶋:ファイザーの後は、バイタルネットの執行役員にご就任され、女性活躍推進も主導されましたが、どのような課題があってどのように取り組まれたのでしょうか。

 

草野:バイタルネットでは元々制度としてはいろいろ取り組まれていた中で、女性活躍推進担当の執行役員として参画し、改めてプロジェクトとして発足させました。

バイタルネットは地域に根ざした医薬品卸で、各支店にも女性の社員はたくさんいました。転勤がない形で総務の課長なども出てきたり、MSも女性が増えているという状況でした。
ただやはり問題であったのが、女性にとっての管理職に対する意識の低さでした。女性自身にもっと管理職を目指してもらう意識をつけたいという点を重要課題として、研修などのプログラムを組みました。
バイタルネットでは経営のトップである社長が、女性活躍を推進する意志が大変強い方だったのでプロジェクトも進めやすかったです。各地で女性を集めて社長と会話をする場を自ら作ったり、様々な場に積極的に参加していただけたりしたので、会社として女性活躍推進に取り組むんだ、という意志が伝わりプロジェクトの大きな推進力になりました。やはりこのような社員の意識を変えていく取り組みはトップダウンで進める要素も必要だと実感しました。
 
あゆみ製薬 草野弘子 女性MR

色々なD&Iのあり方があっていい。全員活躍につながる組織改革をめざしたい。

 

飯嶋:あゆみ製薬の社長にご就任されてからは、D&Iに対するお考えに変化はありましたか。

 

草野:あゆみ製薬でも女性活躍推進には力を入れたいと思い、プロジェクトを立ち上げました。全社員が活き活きと働く会社を目指した多様な人財登用の第一歩としてのあゆみWP(Women’s Project)です。生産部門、営業とマーケ部門、本社部門と三つの分科会を作ってプロジェクトを推進していますが、色々なD&Iのあり方があるということを改めて感じています。

女性活躍推進を進めると、どうしてもなぜ女性だけなんだっていう声は出てきてしまいます。

以前から女性活躍推進は女性を活躍させるためだけにやるのではなく、全社員の働き方方改革とイコールであり、女性が働きやすい環境を作ることは、全社員が働きやすい環境に繋がる、そして優秀な社員が入ってきて会社の成長に繋がるということはいつも強調はしているもののなかなかこのメッセージは伝わらないんですよね。

そこで、「 He for She, She for She, She for He」というコンセプトを掲げました。He for She とは、国連ではじめられた運動で、当社の女性活躍推進には男性のサポートが重要ということで、サポーターとして男性役員に参加してもらいました。あゆみWPは女性中心の現在の活動ということで、She for she、さらにこのあゆみWPは女性だけではなく、全社員の働き方改革を目指す活動であるということで、She for Heという造語を作りました。

 

飯嶋:プロジェクトを通してどのように女性が活躍する姿を目指していますか。

 

草野:色々なタイプの女性がいるので、こうでないといけないというものはなく、自らがやりたいことが実現できるような会社にしたいと思っています。転職をせずとも会社の中でも様々なキャリアを積めるようにしていきたいと思っているので、そういう環境で自らを成長させていってほしいと思います。将来的にはそういう経験をした人たちが、部長になり、本部長になり、役員になりというように、社内からエグゼクティブ人材が育っていくといいなと思います。

 

草野:また、育児をする女性にフォーカスしすぎると年齢層も限られるし、育児を終えた人やキャリアをより優先したいという人が対象外のように見えてしまう。全ての女性をそれぞれエンパワメントできるものにしていかないといけないと感じています。

 

飯嶋:草野さんが目指されている組織の風土について、またその風土の実現のために社員さん一人ひとりに期待されていることをお聞かせいただけますか。

 

草野:あゆみ製薬は社名やシンボルマークにもあるように「歩む」ことへの想いを大切にしています。整形外科からリウマチ領域のスペシャリティファーマということに誇りを持って、患者さんの笑顔のために貢献するというビジョンをしっかりと自分事としてとらえ、仕事をする上での軸にしてほしいと思います。このビジョンを共有するために社員一人ひとりと語りあう場を作っていきたいと思いますし、引き続きパッションリーダーとして、私の前向きな熱意を広く伝えていきたいと思っています。

 

飯嶋:ダイバーシティ推進をさらに進めるためにフラームジャパンに期待されることはありますか。 

 

草野:やはり女性、男性ともに意識を変えていく必要がありますが、それは一企業だけでなく、社会全体として取り組んでいかなければいけない課題だと思います。

たとえば、男性が育児休暇を当たり前に取るようにならないと、女性活躍は進まないと思います。欧米や北欧で女性活躍が進んでいるのは、男性がしっかりと家庭での役割も担っているからこそ。日本では家事育児は女性のものだという意識が男性だけでなく女性にもまだ強いです。そういったキャリアに関わる根本の意識の部分を変えていけるような発信をフラームさんには積極的にしていっていただきたいと思います。これからも是非一緒に頑張っていきましょう。

 
あゆみ製薬 草野弘子 飯嶋真美 女性MR